【特上にぎり】

 なびきの夢は、お寿司屋さんに嫁ぐことだ。
 理由は、単純。
 毎日特上のお寿司が食べられると、信じて込んでいるからだ。
 枯葉家は、一皿百円の回転寿司で十分に満足できる舌の持ち主しかいない。
 しかし、なびきだけは、上流家庭が食べる回らない寿司を一生に一度で構わないから食してみたいと思っていた。

 そんななびきの特技は、寿司を握ることだ。
 母庭子がスーパーの鮮魚コーナーで希に売られている、『お徳用まぐろの切れ端山盛りパック』を買ってくると、キッチンには母娘の背中が並ぶ。
 庭子が寿司ネタとして使えるように、刺身包丁で半解凍のまぐろを切り分けていく。少々脂の乗りが悪い部分は漬けマグロにし、そのままネタとして使えない細かな部分はネギトロ用に一手間加える。
 なびきはフライパンに鰹のだし汁を少量作ると、醤油とみりんを同量注いだ。そして熱してみりんのアルコールを飛ばす。そしてそこへ少量の砂糖を溶かし、漬けダレを完成させた。
 大きなボールに氷を入れると、その上に小さなボールを乗せる。そこへまだ熱い漬けダレを流し入れ、一気に熱を取っていく。
 頃合いを見て、寿司飯の準備だ。
 庭子が、
「んもぉ〜。今日のはスジが多くて、ハズレだったかぁ……」
と嘆いているのを余所目に、炊飯ジャーから飯台へ炊きたてのご飯をあける。もちろん、飯台は、固く絞ったふきんで拭いてある。そこら辺の抜かりは、ない。
 酢、砂糖、塩で作った合わせ酢を全体に回し掛けると軽く蒸らしてから、しゃもじを使って切るように混ぜ合わせた。
 うちわで寿司飯が冷めるタイミングを見計らっていたかのように、庭子がなびきへ寿司ネタを手渡す。
 メイドが寿司を握る様は、なんとも奇妙である。
 しかし、それを奥ゆかしいと感じられなければ、枯葉家の一員にはなれないだろう。





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