天使が通る
Un ange passe

第2話
わたしとの対決

 

 そんな……ある程度は予想していたとはいえ、わたしにはにわかに信じられなかった。彼女がマジカルプリンセス・チャチャだとしたら、このわたしは……いったい、何なの?
 するともう一人のわたしは、わたしの考えていることを見透かしているかのように話しだした。
 「あなた、大変に混乱しているわね。まあ、無理もないわ。私だってすぐには信じられなかったもの、受け入れられなかったもの、この事実が。でもね……」彼女はニャンコハウスをぐるりと見まわしながら云うと、キッとわたしを睨みつけるようにして「私はあなたで、あなたは私なの。これは揺るぎない事実なのよ」
 ……なぜ? なぜ、こんなことになってしまったの? わたしの頭の中を、いくつものクエスチョンマークがまわっている。
 「なぜ、こうなったか、ですって?」もう一人のわたしは、またもやわたしの思考を覗きこんでいる。すべてを知っている。「それは、私でも分からないわ。こんなとき、セラヴィー先生に相談できたらすぐに解決するのだけれど……」
 ……相談? あ、そうだ! お母さんとの魔法の通信コンパクトを使って……
 「魔法の通信コンパクトを使うつもりならムダよ。あなたが再びその姿になったことによって、『魔法の通信コンパクト』、『何でも詰め込みブローチ』、『クレッセント・オーロラ・ブレスレット』は消えてしまったみたいなの」
 わたしは、その言葉を最後まで聞かずに調べてみると……ない。確かに、あったはずのアイテム類が、奇麗さっぱりなくなっていた。
 「とにかく」もう一人のわたしは、あまりのことに呆然としているわたしに向かって、強く云った。「私が二人いるだなんて、おかしいわ。私は一人で十分。どちらか一方でいいのよ。でも、私は死にたくないわ。あなた、素直に消滅してちょうだい」

 云うが早いか、すでに彼女は態勢を整えていた。わたしは一瞬、何が起きようとしているのか分からなかった。いや、それどころじゃなかったのだ。だけど、彼女は容赦なかった。
 「ビューティーセレインアロー!」
 彼女は、天高く手を掲げてアローを呼び出す。続けて、
 「セイントフェアリー・ナビゲーション!」
 不死鳥だ! ピー助が……また、不死鳥に戻ったの?
 「ピー助!」
 叫んだところで、ムダだった。不死鳥になったピー助は、完全にもう一人のマジカルプリンセス……つまり、もう一人のわたしのアイテムと化しているのだから……ウイングクリスに。
 「ライトニングフェザー・スキルアップ!」
 わたしは、突然の攻撃に驚いたが、ここで怯んだら負けてしまう。本能的にそう感じたのか、身体が自然に動いていた。
 「バードシールド・ビルドアップ!」
 マジカルプリンセス三種の武器、ビューティーセレインアロー、ウイングクリス、そして、バードシールド。わたしが魔界の扉を封印したときに、それらのアイテムも、マジカルプリンセスと共に封じ込められたはずだった。だけど……どうやら、わたしがこうしてホーリーアップしたことに関連あるのか、また装備されている。
 もう一人のわたしは、わたしがバードシールドを装着したのを見ても、別段驚いた風もなく、「ウイングクリス・バーニングフラッシュ!」
 いかにあらゆるものから身を守るバードシールドとはいえ、相手は同じプリンセスの武器。彼女も、そしてわたしも跳ね飛ばされてしまった。
 しかし、彼女はすぐに体勢を立て直すと、再び襲いかかってこようとしていた。
 わたしもすぐさま、ウイングクリスを呼び出した。すると不思議なことに、すでに、彼女が呼び出しているにもかかわらず、わたしの手にも懐かしい短剣が戻ってきた。
 「……ピー助……行くよ」
 二人のマジカルプリンセスの、二本のウイングクリスが激しくぶつかり、火花が散った。
 「どうして……どうしてこんなことをするの!」
 「さっき云ったでしょ。私は一人でいいのよ!」
 わたしたちは、ウイングクリスを交えながら半ば叫ぶように云い合っていた。
 それにしても……わたしは、もう一人のわたしの云い分に、無性に腹が立っていた。
 「……悲しい人。あなたは、わたしじゃないわ!」
 「何っ?」
 一瞬、わたしたちの身体が離れた。その隙を、わたしは見逃さない。いや、見逃すことは出来ない。お手当……してあげる。
 「ウイングクリス」わたしは、もう一人のわたしに、熱い思いを込めながら放つ。「バーニングフラッシュッ!」
 「させるかっ!」
 もう一人のわたしも、応戦してきた……。

 その瞬間、まばゆい閃光とスモークで、ニャンコハウスの中は何も見えなくなっていた。
 わたしたちも、お互いのウイングクリスの反動で倒れこんでしまったままだ。
 「……あ、……わた……」
 おぼろげに動く影に向かって声をかけようとするのだが、動けないまま、気を失ってしまった。
 その、かすれゆく意識の中、もう一人のわたしが立ち上がってウイングクリスを構えるのを、目の片隅でとらえていたのだった……

 

 「………ャ…ャ、……チャチャ、しっかりするんです、チャチャ」
 …………あ。……遠くから、セラヴィー先生の声がする。
 目をうっすらと開けると、わたしは、ニャンコハウスのベッドに寝かされていて、セラヴィー先生が心配そうに覗きこんでいた。
 「……せ……セラヴィー……先生。いったい……どうして……」
 わたしが声をかけると、セラヴィー先生は幾分ホッとしたように、「妙な胸騒ぎがしたので戻ってきたのです。それよりも……これは、どうしたことなのです?」
 セラヴィー先生の問いかけに、はっとして自分を見ると……まだ、マジカルプリンセスのままだ……。
 わたしは、いままでの一部始終を、セラヴィー先生に説明した。

 「……そうだったんですか……ついに、恐れていたことが起きてしまいましたね。まさか、こんなに早くやってくるとは……」
 わたしの、途切れ途切れの説明を聞いたあと、セラヴィー先生は云った。
 「恐れて……いた?」
 わたしがセラヴィー先生の言葉を繰り返すと、エリザベス(先生)は、あわてたように、
 「チャチャ、そんなことは気にしないのよ」
 と云って、先生は、
 「チャチャ、これをお飲みなさい」
 と、何かの錠剤を差し出した。「一気に飲み干すのです」
 わたしには何のことか分からなかったけど、セラヴィー先生の云うことだもん。きっと、この状況を治すことが出来るんだよね?
 わたしは、一気に錠剤を飲み込んだ。すると……

 「……こ、これは……」
 「いまは仕方がないのです。この、わたしが、牛乳パックで作った、チャチャの赤ずきんです。この錠剤を飲んでいれば、しばらくはそれを着たままでいられます。ただ……私の記憶が確かならば、錠剤の効果が切れてしまえば、また元のマジカルプリンセスに……」
 わたしの姿形は、マジカルプリンセスのままで、衣装だけが赤ずきん、というちぐはぐな状態になっている。
 「先生、それじゃあ、わたしはもう元のチャチャに戻れないの?」
 「……いや、きっと戻れます。戻してみせます。安心していることです。私は……その、もう一人のマジカルプリンセスが気にかかります。チャチャを元の姿に戻すためには、ある物を取ってこなければなりません。私は出かけますが、絶対に、誰が来ても居留守を使うんですよ。例えそれがチャチャの親友でも、です」
 そう云いながら、セラヴィー先生はほうきにまたがると、そのままどっかに行ってしまった……
「セラヴィー先生……」
 わたしは妙な胸騒ぎを感じながらも、その場に立ち尽くすしかなかった。


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最終更新日:2009/04/29(水)

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